絵画は時間の経過と共に絵具・メディウム※1、ワニス※2が変色するなど様々な変化がおこる。特に油彩画において乾性油やワニスが自然に変化した色合いである「Patina/古色・黄金の色」に対する見解は国によっても異なっている。
1947年にNational Gallery/LONDON (イギリス)で開かれた「Cleaned Pictures(絵画の洗浄)」ではPatinaに対する様々な論争が繰り広げられた。
National Galleryはオリジナルの絵画の状態を取り戻すために黄変したワニスを完全に除去する「完全洗浄」の立場をとり、イタリア・フランスはオリジナルの絵画の状態を保護するためにも全て除去することは危険だとして「軽減洗浄」を提言している。
たとえワニス層を全て除去するか薄く残すかにしても作品修復には必ずリスクが生じる。また古いワニスを除去、または軽減した後に新たにワニスを塗布すればその変化も始まっていく事となる。
合成ニス(ケトン樹脂)の経年劣化
左から作成直後・1年・2年・3年・5年以上経過
また、ワニスだけでなく絵画作品の描画材料も変化していくものであり、完全なオリジナルを取り戻すこと自体が不可能なことである。
現在、私達の絵画修復ではオリジナルを取り戻すのではなくオリジナリティを取り戻す処置が提案されている。
以下は私の尊敬するイタリア フィレンツェの絵画修復家 Massimo Seroni教授の言葉である。
「年代を経た作品にはその歳ならではの美しさがある・・人間も同じだろう?20歳代の美しさと40歳代の美しさ、80歳過ぎたものを生まれたての赤ちゃんのようにするのが望ましいのかな?」
年代や作家など作品ごとに異なるオリジナリティを探り、その作品ならではの美しさを理解した上で絵画の修復処置を判断することが、最も大切で最も難しいことだと感じている。
※1絵具の中の顔料のつなぎと固着の役割をする結合材のこと。媒質、展色材とも呼ばれる
※2絵具に光沢を与えたり、絵画表層を保護するために塗布する樹脂
2009.12 上野 淑美